HMD用の実写全周囲映像のストーリー仕立てにおける視線誘導等のノウハウ例

概要

先日、OculusRift向けのストーリー仕立ての全周囲映像を体験する機会がありました。

「OS☆U」があなただけに超絶接近!? http://vr-360.net/osu/

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これは多人数アイドルグループが自分に向かって自己紹介というか、お喋りを小芝居をしながら行う、というもので、言うならば映像のバイノーラル録音みたいなものです。 この手の実写360度映像は、少し前だとプロ用機材で3桁万円から、という感じだったのが最近GoProをサイコロ状に6台マウントする( http://freedom360.us/ )、と言う価格破壊ソリューションが登場しました。また、タイミング良くOculusRiftと言う没入感が高く安価なHMDも出たことで、今年に入って結構色々な人が作っています。

例えばバイクや、サーフィンなど、普段一人称視点では中々体験することが無い事を、(首を振ったら対応した絵が出てくる)一人称視点で見ることが出来るのは、想像以上に楽しいものです。具体的には、この記事を書いている時も、「見る」と言う言葉より「体験する」と言う言葉を使いたくなる ような感じです。

そして、この手の360度実写映像コンテンツを作る上では、その機材特性上、注意すべき点が色々あります。 今回僕が体験した「OS☆U」があなただけに超絶接近!?というコンテンツは、相当良く作られていて、実に良かったので感想と言うか技術的な凄い!と言う点を書いておこうと思います。もしこれから体験する方がいたら、若干ネタバレになってしまうかもしれないですが、ご容赦ください。

多人数が登場する実写全周囲コンテンツで、ちゃんと作られてるものは、現時点ではあまり多くないので、非常に楽しい経験でした。

直近では10/11-10/12の豊橋ぽぷかる歩行者天国 ( http://npo-honokuni.jp/popcal/ ) で体験できるようなので、お近くの人は是非!とお勧めします。以下ぐだぐだと感想。

注視点の設計

人間の視野角は、ざっと水平160度くらいです。そのうち、注視点というか注目(脳みそのピントが合う)出来る視野角は広めに見積もって45度くらいしかありません。
このため360度映像を用意しても、常に200度分以上の映像を「見ることが出来ない」と言う問題があります。なので何も考えずにコンテンツを作ってしまうと、体験者が大事なシーンを見逃してしまう事が起こります。
例えばバイクに乗る、サーフィンをする、と言う様なコンテンツでは、普通に作ると進行方向に注目が行くようになっています。
一方でカメラ視点が動かない(つまり、教室の中の定点シーンみたいなもの)場合は、体験者に「出来ればどこを見て欲しいか」のサインを送ってやる必要があります。極端な事を言うと、もし体験者が壁の時計をずっと見ていたら、視界は時計だけ、音だけ話し声が聞こえる、みたいな感じになる訳です。

自己紹介シーンの注視点設計

このコンテンツでは冒頭から1分程度の間は、常に喋っているのは一人(と言うか、一方向)だけになっています。また、一人が話し終わった時に、自然な演技でもって次に喋る人の方を向かせる演出が入っています(例えば、喋り終わったタイミングで次の人の位置を指を指し示す、あるいは喋ってた人を注視していたら、視界の端くらいに見える所で派手なアクションや動きを起こす等)
これによって、初めて見る人にとっては自然な形で「右見て、正面見て、左見て」のような、首振りを伴う全周囲映像体験の醍醐味を最初の一分で教えることが出来ています。
ストーリー上の話をすると、多数のアイドルに「振り回されている感じ」を受けました。なかなか普段体験できることではないので、印象に残ります。

撮影場所

また、撮影場所の妙味もあります。部屋の隅で撮影すると、例えば部屋の隅の近くにある四角い窓枠などに全周囲映像の広角歪みが顕在化するため違和感が起きます。
なので部屋の隅からは離れた場所にカメラが置かれています。また、真後ろ90度分はちょっとしたお立ち台と言うかステージになっていて、映像が始まった瞬間に「ああ、この後ろはクライマックスとか大切な場面で使う為のステージだな」「ということは、しばらくはこの真後ろで何かが起きてて見逃す心配はないので、残り270度分を気にしていれば良いな」と舞台装置から理解できます。
全周囲映像を一回限りで見る時に一番体験者が気にするのが「大切な場面の見落とし」なので、その危険性が少ない事をさりげなく呈示する、良い撮影場所でした。

スティッチング位置周辺を避けた立ち位置

GoPro等の広角カメラは、カメラの中央は解像感が高いのですが、周辺部は荒い絵になってしまいます。また、周辺部は隣のカメラの絵との繋ぎあわせを行うので、繋ぎ目付近が変な絵になってしまう危険性も有ります。 カメラ自体が動き回る場合は、こういった問題は諦めてしまうか、複数テイクを取って良いところだけをうまく使うしかないですが、今回は定点カメラなので、アイドルの人が立つ場所はこういったカメラの繋ぎ目を避けているようでした。これは事前に立ち入り禁止場所をうまく説明していたのだろうと予想します。
この、カメラの繋ぎ目を避けた立ち位置には副次的な効果もあって、全周囲映像なので見たい方向にちゃんと首を振って見る、と言う動作を行わせる為にも効果を発揮しています。
このあたりを狙ってやっているのだとすれば、コンテ書いたり現場で指揮を取った人は、相当に分かっている人です。

後半の注視点設計

前半のシーンは注視点が一本道になるように設計されていましたが、後半は自分を取り囲むような感じでOSUの人が配置されるシーンがありました。 これは、誰に注目するか(推しメン)と言うのを体験者が「選ぶ」みたいな感じになるので、一本道の動画コンテンツにも関わらず、インタラクションを感じられるような仕組み。
残念ながら僕は推しに相当する人はいなかったので、グルグル見回していました。
コンテンツとして「アイドルに振り回される→アイドルを主体的に選ぶ」みたいな感じで前半と後半の構成が対になっていることにも注目です。 技術的には自然な形で「全周囲映像のチュートリアル→実践」になっている事が印象に残っています。

嗅覚

オペレータの方が適切な香り(いいにおいだった!!!)の香水を含ませたハンカチを手動で動かして、嗅覚呈示を行っていました。原始的な方法ですが、嗅覚は何もないのと、少しでもそれっぽい匂いがするのは全然没入感が違うので、うまい方法だなあと思います。 シーン転換が頻繁にあると、呈示する匂いのリフレッシュ(一度無臭にして、別の匂いを呈示するの、結構大変なシステム)などが問題になるのですが、今回のコンテンツは場面転換が無いこともあって、導入しやすそうでした。

その他

  • GoPro6台のスティッチング、自動だけだと辛い場所出てくるので場合によっては手動で修正してるようです。
  • 再生するPC、かなり再生負荷が高そうです。
  • ステレオ視ではないですが、意外と立体感を感じます。
  • 登場人物が一人のようですが、こちらのKAYACさんの同種の取り組みも気になります

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クレジットとか

株式会社ジャミン( @_horinouchi )
http://vr-360.net/osu/
関係者の方々、ありがとうございました!