いかにして人類はVRアプリケーションの標準UIを手から伸びるレーザーポインター方式に確定したのか

概要

昨今のVR-HMDを使うアプリケーションは複雑な設定が必要なもの(例えばVR-SNSやクリエイティブツール)において、ほぼデファクトスタンダードなUXとしてUIパネルに並んだボタンやスライダーを手に持ったコントローラから伸びるレーザーポインターで選択して人差し指トリガーで決定、という物を採用しています。

なんでこう収斂したのか、という私見とメモを書いていきます。

前史

Oculus Touch/Vive Wandが登場するまでは、GearVRやOculus Rift DK2などがコンシューマ向けVRの主戦場でした。

これらのデバイスではコントローラの向きは取得できる(位置を取得できない)+コントローラに決定ボタンがある、という操作環境です。
そういった環境に置いてVR-UIの最適解はコントローラの先端からレーザーポインターが伸びて、レーザーポインターの先にあるボタンをポイントして、決定ボタン(トリガー)で選択、という物でした。

手の位置がわからないので手を伸ばして何かを掴む、手を伸ばしてボタンを押す、ということが出来ません。なのでレーザーポインターポインティングして決定、をするしかなかったです。

(厳密には、顔の正面から伸びたレーザーポインターで一定時間見つめ続けると選択、というUIもあったんですが、あまり複雑な操作をするアプリでは見かけなかったです)

Oculus Rift CV1( Touch) /Vive Wandの登場

VR元年です!家庭用VR機器なのに、両手の位置と姿勢がミリ単位で正確に取得できる夢のデバイスが出てきました。

このときに各社様々な操作方法を試みますが、前史にあるようにレーザーポインター+トリガーに対して手の位置が取得できるこの環境では「物理的に手でボタンを押す」という事が可能になったので、直接ボタンを押す。というUXが多く用いられました。

この空間上にあるボタンを手で押すのは直感的な操作 であり、しかも 手垢のついたレーザーポインター方式ほどダサくない という点で、未来感もありました。今まではハードウェア制約から渋々(?)レーザーポインターを使っていたんですが、今なら素直に直接UIを触れるようになったので採用したくなる操作です。(ボーンアイデンティティのUIを見てください、直接宙に浮いてるUIを触って操作してますよね。これです!!これができるハードウェアを長い間待ってたんです!)

更に言うと、このOculus Rift CV1/HTC Viveの頃は片目当たりの解像度は1000x1000ピクセル程度で、それほど細かいUIを用意しても視認性が高くない為、空間上に浮いているボタンを大きくする必要があり、その大きなボタンを直接押すというVR-UIが流行しました。

特にOculus社のToyboxデモの直感的なUIは開発者を魅了しました。直接手を伸ばしてアイテムを取り出すなんてすごくクール!!!

youtu.be

OculusQuest 以降

Quest/Quest2の登場によって、多くのVRユーザが生まれました。 これらの機器は片目あたり1600x1600以上の解像度を持ち、片目あたりのピクセル数で言うと前世代のPC向けVRの2倍にもなります。

こんな凄い解像度だと ボタンが小さくても視認できます
さらに、直接手でボタンを押す操作は、奥行知覚を最大限に使うので押したと思っても奥行きを間違えていて押せない、などの問題が起きてきました。(あと、物理的に押すUIって疲れちゃいますしね)

そこで小さなボタンを並べたUIを手のコントローラから伸びるレーザーポインターでポイントして、トリガーで選択する。というレーザーポインター方式のUIが復権しました。

レーザーポインターは離れるほどポイントしにくい、という難点はありますがポインターに対して「手ぶれ補正」を掛けることで小さなボタンもポインティングできます。
また、レーザーポインターは奥行き判定を気にしなくても良いという利点があります。

そんなわけで前史に先祖返りした、とも言えますが現在のVR-UIは大体がレーザーポインター方式を採用するようになりました。

// 他の要因としては、例えばVR空間内で文字入力をする時、キーボードを空間に浮かせると一個づつのキーが小さくなってしまって、レーザーポインターじゃないと難しい、という説もあります。なのでQuestのOSのUIもレーザーポインターですね!

というお話でした

これが8年程度、VR-HMDを使ったコンテンツ開発を仕事にしている僕から見えているVRUIの変遷です。

VRUIはダサいレーザーポインターからカッコイイ直接ボタンを押す方式に移行したんだけど、揺り戻し的に今はレーザーポインターに回帰しているわけですが、こういった経緯があったんじゃないかなあと思いを馳せるのも楽しいですね。